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【2024年改正対応】新しくなった「相続時精算課税制度」のメリット・デメリット

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ユアメディア編集部 ユアメディア編集部

はじめに:制度を大きく変えた「年間110万円の基礎控除」

前回、第1回では「相続時精算課税制度」の基本的な仕組みと、従来の「暦年課税」との違いについて解説しました。この制度は、累計2,500万円まで非課税で贈与できる代わりに、一度選択すると暦年課税には戻れないという、選択に重みのある制度でした。

しかし、2024年1月1日から施行された税制改正により、この制度は劇的に使いやすくなりました。最大の変更点は、年間110万円の基礎控除が新設されたことです [1]。

第2回では、この改正によって何が変わったのか、そして新しくなった制度のメリットとデメリットを徹底的に深掘りし、制度の「今」を正しく理解していきましょう。

1. 2024年改正のポイント:年間110万円の基礎控除

改正後の相続時精算課税制度は、以下の2つの贈与税の非課税枠を併用できるようになりました。

  1. 特別控除枠:累計2,500万円(改正前からの枠)
  2. 基礎控除枠:年間110万円(2024年新設)

この「年間110万円の基礎控除」が新設されたことによるメリットは計り知れません。

1-1. 贈与税の申告が不要に

年間110万円以下の贈与であれば、贈与税の申告が不要になりました [1]。

改正前は、相続時精算課税を適用中は1円でも贈与があれば、贈与税が非課税であっても、贈与税の申告が必要でした。この手間がなくなったことで、より気軽に制度を利用できるようになりました。

ただし最初の贈与の際は、申告期限内(贈与の翌年2月1日~3月15日)に「相続時精算課税選択届出書」を所轄税務署への提出が必要となります。

1-2. 相続財産への加算が不要に

年間110万円以下の贈与は、贈与者が亡くなった時の相続財産への合算(加算)が不要になりました [1]。これは、暦年課税の基礎控除内の贈与と同様に、相続税の計算上「なかったこと」として扱われることを意味します。

改正前は、特別控除枠(2,500万円)内の贈与であっても、すべて相続財産に合算する必要がありました。しかし、基礎控除枠(110万円)内の贈与は、相続税の計算上、相続財産への合算(加算)が不要となります。

なお、暦年課税の贈与についても、2024年以降の贈与から相続開始前7年以内(改正前は3年以内であったものが段階的に延長され、最終的に7年以内)の贈与は相続財産に合算されることになりました [1]。この点からも、相続時精算課税制度の年間110万円の基礎控除は、相続税の加算対象期間の制限を受けないという点で、暦年課税の基礎控除よりも優位性があると言えます。少額の贈与をコツコツと行いたい方にとって、この「加算対象外」という点は非常に大きなメリットとなります。

(2024年改正後の相続時精算課税制度の仕組み)

  • 年間110万円まで → 基礎控除(申告・相続時の加算不要)
  • 110万円超〜累計2,500万円まで → 特別控除(申告必要、相続時に加算)
  • 累計2,500万円超 → 一律20%課税(申告必要、相続時に加算)

(参考:暦年贈与の場合)

  • 年間110万円まで → 基礎控除(申告・相続時の加算は3年から徐々に延長され最大7年遡って加算)

2. 改正後のメリット再評価

年間110万円の基礎控除が加わったことで、相続時精算課税制度のメリットはさらに強固なものになりました。

2-1. メリット1:大きな金額を非課税で贈与できる

累計2,500万円という大きな枠を利用して、まとまった財産を贈与時の税負担無しで子や孫に渡すことができます。例えば起業資金など、まとまった資金が必要な場合に有効です。

2-2. メリット2:贈与財産の価額が固定される

相続時精算課税制度で贈与した財産は、贈与した時点の価額で相続財産に合算されます [2]。

  • 将来値上がりしそうな財産(例:成長企業の未公開株、都心部の土地など)を贈与しておけば、将来、その財産が大きく値上がりしても、相続税の計算対象となるのは贈与時の低い価額のままです。これは、相続税対策として非常に強力なメリットです。

2-3. メリット3:年間110万円の非課税枠を毎年使える

2024年改正により、毎年110万円までの贈与であれば、申告や相続時の加算を気にせずに、確実に財産を移転できるようになりました。これは、暦年課税のメリットを一部取り込んだ形となり、制度の柔軟性を高めています。

3. 見過ごせないデメリットと注意点

制度が使いやすくなったとはいえ、相続時精算課税制度には、一度選択すると取り消せないという重い制約があり、デメリットも存在します。

3-1. デメリット1:暦年課税に戻れない

最も重要なデメリットは、一度この制度を選択すると、その贈与者からの贈与については、生涯にわたって暦年課税(年間110万円の基礎控除)の適用を受けられなくなることです [2]。

ただし、2024年改正により、相続時精算課税制度自体に年間110万円の基礎控除ができたため、このデメリットは実質的に緩和された、といえます。

3-2. デメリット2:小規模宅地等の特例が使えなくなる可能性がある

相続税の計算において、被相続人(亡くなった人)が住んでいた土地などについて、一定の要件を満たせば土地の評価額を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例」という非常に強力な特例があります [3]。

この特例は、相続や遺贈によって取得した財産にしか適用されません。

もし、この特例の適用を受けたい土地を、生前に相続時精算課税制度を利用して贈与してしまうと、その土地は「贈与財産」となり、特例の適用を受けられなくなってしまいます。

3-3. デメリット3:不動産取得時の税金が高くなる可能性がある

不動産を贈与した場合、受贈者には登録免許税と不動産取得税がかかります。

登録免許税:相続の場合は0.4%ですが、贈与の場合は2.0%と高くなります [4]。

不動産取得税:相続の場合は非課税[5]ですが、贈与の場合は原則として課税されます。ただし土地や住宅については、税率の軽減措置(3%)が適用されています。この軽減措置は、令和9年(2027年)3月31日まで延長されることが決定しています[6]。

贈与税は非課税でも、これらの税金が高額になる可能性があるため、不動産の贈与には特に注意が必要です。

(相続時精算課税制度のメリット・デメリット)

区分内容影響度
メリット累計2,500万円まで非課税で贈与可能
メリット贈与財産の価額が固定され、将来の値上がり益を非課税で移転できる
メリット年間110万円までの贈与は申告・加算が不要(2024年改正)
デメリット一度選択すると暦年課税に戻れない中(改正で緩和)
デメリット小規模宅地等の特例が使えなくなる可能性がある
デメリット不動産取得時の登録免許税・不動産取得税が高くなる

4. 第2回のまとめと次回予告

2024年改正により、相続時精算課税制度は「大きな枠で贈与しつつ、毎年少額の贈与も非課税でできる」という、非常に魅力的な制度に進化しました。しかし、「小規模宅地等の特例」など、他の税制との兼ね合いを慎重に検討しなければ、かえって損をしてしまうリスクもあります。

次回、第3回では、この制度を実際に利用するための具体的な手続きと、どのようなケースで制度が有効に活用できるのかを解説します。そして、複雑な判断を誤らないために、専門家に相談するメリットについても触れていきます。

参考文献

[1] 令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし – 国税庁
[2] 相続時精算課税制度とは?メリット・デメリットをわかりやすく解説 – 三菱UFJ銀行
[3] No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の計算の特例(小規模宅地等の特例) – 国税庁
[4] No.7191 登録免許税の税額表
[5] 地方税法第73条の7に規定されています。
[6] 不動産取得税 – 総務省

相続時精算課税制度をゼロから学ぶ!シリーズ

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