【令和4年度改正対応版】2022年1月開始!改正電子帳簿保存法(後編)
前編の記事では、「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」を解説しました
今回の記事では、「電子取引」と「消費税法との関係」を解説します!
★この記事によって分かること
- 「③電子取引」の対象書類と、要件を具体例とともに解説します。
- 本則課税を採用している消費税課税事業者が、仕入税額控除の適用を受けるための要件が、電子保存の場合と紙保存の場合とで一部異なるため、具体例とともに解説します。
電子取引(義務規定)
電子取引とは、取引情報の授受を電磁的方式により行う取引をいいます。具体的には、ネットショッピング、メールにより請求書等を受け取る場合、クラウドを通じて請求書等を受け取る場合、キャッシュレス決済の電子明細、FAX(紙出力しないもの)等がこれに該当します。
なお、こちらは(義務規定)になりますので、電子データで保存をしなければなりません。
●対象書類
- “電子データで””相手先から受領した”「取引関係書類(注文書、契約書、領収書など)」
●要件
電子取引の保存要件には、≪A.必須的保存要件≫と≪B.選択的保存要件≫があります。
≪A.必須的保存要件≫については3つ全てを満たす必要があり、≪B.選択的保存要件≫については4つのうちいずれかを満たせばよいこととなります。
≪A.必須的保存要件≫
- パソコン、ディスプレイ等を備え付けること
- 格納したものを日付、取引先、金額で検索できること(判定期間(※1)の売上高が1,000万円以下の事業者は、この検索要件は不要)
- 税務調査の際、ダウンロードの求めに応じること(※2)
≪B.選択的保存要件≫
- タイムスタンプが付された後の授受
- 事務処理規程を定め、受領後2ヶ月と7営業日以内にタイムスタンプを付す
- 訂正削除できないシステムか、訂正削除の履歴を残して確認できるシステムに格納する
- 事務処理規程を定めて運用し、その備付けを行う
(※1)判定期間は「消費税法のいわゆる免税事業者に係る基準期間」と考え方は同様となります。
すなわち、以下の期間の売上高により、検索要件があるかどうかが判断されます。
個人事業主・・・電子取引が行われた日の属する年の前々年の1月1日から12月31日までの期間
法人・・・電子取引が行われた日の属する事業年度の前々事業年度
(※2)税務調査の際、ダウンロードをお断りしたい場合には、検索要件に以下が追加されます。
1.日付又は金額の範囲指定により検索可能であること
2.二つ以上の任意の記録項目を組み合わせて検索可能であること
●補足
なお、自社開発ソフトに保存する場合には、「システム概要書等の備付け」も≪A.必須的保存要件≫の一つとなります。(オンラインヘルプページなど)
また、データを改ざんした場合には、重加算税が10%加算されます(本来35%~40%)。
●具体例
<電子取引具体例1:メール添付された請求書>
→≪A.必須的保存要件≫,≪B.選択的保存要件≫を満たして格納する必要があります。メールソフト上で閲覧できるだけでは検索要件を満たさないので不十分です。
また、メール本文に値引き理由等が記載されている場合にはそちらも併せて保存する必要があります。
なお、受領者側で訂正削除が可能ですので、≪B.選択的保存要件≫については要件1,2,4のいずれかの方法で保存する必要があります。
<電子取引具体例2:ホームページからダウンロードした請求書、スクリーンショットした請求書>
→≪A.必須的保存要件≫,≪B.選択的保存要件≫を満たして格納する必要があります。
なお、受領者側で訂正削除が可能ですので、≪B.選択的保存要件≫については要件1,2,4のいずれかの方法で保存する必要があります。
<電子取引具体例3:クレカ明細、スマホアプリの決済データ、EDI(電子データ交換)システムを利用>
→訂正削除できないか、訂正削除の履歴を残して確認できるシステムであれば≪A.必須的保存要件≫と≪B.選択的保存要件≫のうちの3の要件、それ以外であれば≪A.必須的保存要件≫と≪B.選択的保存要件≫の1か2か4の要件を満たして格納する必要があります。
なお、訂正削除できないか、訂正削除の履歴を残して確認できるシステムに格納していても、当該データをダウンロードして保存する場合には、タイムスタンプもしくは事務処理規定が必要です。
●追記:2023年までの経過措置(重要)
上述の通り、電子帳簿保存法の改正に伴って「電子取引」について電子保存が義務になります。当初、義務化は2022年1月1日からと予定されていました。
ですが開始直前の2021年12月に与党自由民主党・公明党が発表した令和4年度税制改正大綱により、一定の宥恕措置が整備されました。これにより「2023年12月までの電子取引に係る書類は、税務調査の際にやむを得ず対応が困難だった旨を伝え、出力書面を提示することができれば、保存要件を満たしたこととなる」こととなりました。以下が改正大綱の全文になります。
【電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存への円滑な移行のための宥恕措置の整備】
電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度について、令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間に申告所得税及び法人税に係る保存義務者が行う電子取引につき、納税地等の所轄税務署長が当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存要件に従って保存をすることができなかったことについてやむを得ない事情があると認め、かつ、当該保存義務者が質問検査権に基づく当該電磁的記録の出力書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限る。)の提示又は提出の求めに応じることができるようにしている場合には、その保存要件にかかわらず、その電磁的記録の保存をすることができることとする経過措置を講ずる。
(注1)上記の改正は、令和4年1月1日以後に行う電子取引の取引情報について適用する。
(注2)上記の電子取引の取引情報に係る電磁的記録の出力書面等を保存している場合における当該電磁的記録の保存に関する上記の措置の適用については、当該電磁的記録の保存要件への対応が困難な事業者の実情に配意し、引き続き保存義務者から納税地等の所轄税務署長への手続を要せずその出力書面等による保存を可能とするよう、運用上、適切に配慮することとする。
(参考)https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/news/policy/202382_1.pdf
上記より、オンライン取引であっても、暫定では「形式問わず経費性を担保できれば」法人税法・所得税法上の問題になることはないということになると考えられます。
とはいえ、将来の電子保存義務化に備えて、今のうちから要件を満たしたうえでの電子保存とする運用を検討されてもよいかもしれませんね。
消費税法との関係(本則課税・課税事業者向け)
電子帳簿保存法が改正されても、消費税法の保存要件はインボイス制度の導入(2023年10月〜)までは変更がないため、注意が必要です。
消費税の仕入税額控除の適用を受けるためには、原則として請求書等の原本保存が必要になります。
しかし、税込の支払額が3万円未満の場合には、請求書等の保存を要せず、法定事項(①相手方の氏名又は名称②取引年月日③内容④金額)が記載された帳簿の保存のみでよいこととされています。
また、税込の支払額が3万円以上であっても請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由がある場合についても、請求書等の保存をせずに仕入税額控除の適用を受けることができます。
ただ、この場合には、法定事項を記載した帳簿に以下の事項を記載しなければなりません。
- やむを得ない理由
- 相手方の住所又は所在地
電子取引により買手が売手から請求書等のデータのみを受領し、電子データで保存している場合も、紙の請求書等の交付を受けなかったやむを得ない理由に該当します。
つまり、3万円以上の電子取引について紙で保存しない場合、
- 相手方の氏名又は名称(摘要)
- 取引年月日
- 内容(摘要)
- 金額
- 電子保存である旨(摘要)
- 住所(摘要)
を帳簿に記載する必要があるようです。
5と6を帳簿に記載することができない場合、紙でも保存する必要があります。
ちなみに適格請求書保存方式(いわゆるインボイス制度)の導入に伴って保存要件も変更されますので、上記は令和5年9月までの取り扱いになります。
こちらを図でまとめると以下の通りとなります。
なお、インボイス制度の詳細については以下の記事をご覧ください。
●具体例
<事例1.会社のクレジットカードを使用して、店頭で支払った場合>
A.30,000円未満の場合
⇒以下3通りのいずれかの方法で保存をすることにより、仕入税額控除が可能となります。
- 請求書等をスキャンして保存(②スキャナ保存の要件を満たせば、紙の領収書は破棄OK)
- クラウド会計に明細を同期+摘要に法定事項記載(③電子取引の要件を満たせば、紙の領収書は破棄OK)
- 紙で保存
B.30,000円以上の場合
⇒以下の2通りのいずれかの方法で保存をすることにより、仕入税額控除が可能となります。
- 請求書等をスキャンして保存(②スキャナ保存の要件を満たせば、紙の領収書は破棄OK)
- 紙で保存
<事例2.会社のクレジットカードを使用して、Amazonで支払った場合>
A.30,000円未満の場合
⇒以下の2通りのいずれかの方法で保存をすることにより、仕入税額控除が可能となります。
- クラウド会計に明細を同期+摘要に法定事項記載
- 明細を紙に出力して保存
B.30,000円以上の場合
⇒以下の2通りのいずれかの方法で保存をすることにより、仕入税額控除が可能となります。
- クラウド会計に明細を同期+摘要に法定事項記載+摘要に電子取引である旨と住所も記載
- 明細を紙に出力して保存
おわりに
いかがでしたでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました。
少しでもお役立ていただけましたら大変幸いです。
これらの情報は掲載時点の法令や会計基準等に基づいたものであり、その後の法令や会計基準等の新設・改正等を反映しておりません。したがって、現時点における正確性を保証するものではありません。実際に適用される場合は事前に顧問税理士と相談の上、実行するようお願いいたします。
※2022年12月16日に与党自由民主党・公明党より、令和5年度税制改正大綱が発表されました。
改正の内容については、『先生教えて!!令和5年度税制改正大綱(電子帳簿保存法)の内容とは?』をご覧ください!
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